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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
01 第一部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页
一五 地鶏
最初の一週間ほどは、それでも、次郎は母の言いつけをどうなり実行した。しかし、硝子戸にうつる自分の姿は、いつも皮肉に彼自身を嘲った。しかも、その間に、彼の「第三の世界」は、拒みがたい魅力をもって、たえす彼を手招きしていたのである。
彼は、とうとう、ある日学校の帰りに、地団駄ふんで泣いている俊三を放ったらかして、仲間の二三人と何処かに遊びに行ってしまった。
(父さんは、こんなことで、僕の頭を煙管でなぐりつけたりはしない。)
彼は、遊びのあい間あい間に、そんなことを考えた。それでも、彼は、自分の家に帰るのが気まずかったとみえて、その日から、また正木の家に行って、しばらくそこから学校に通うことにした。
一五 地鶏
ある日、次郎は、正木の家の庭石にただ一人腰を下して、一心に築山の方を見つめていた。
築山のあたりには、鶏が六七羽、さっきからしきりに土をかいては餌をあさっている。雄が二羽まじっているが、そのうちの一羽は、もうこの家に三四年も飼われている白色レグホンで、次郎の眼にもなじみがある。もう一羽はそれよりずっと若い、やっと一年ぐらいの地鶏である。その汚れのない黄褐色の羽毛が、ふっくらと体を包んで、いかにも元気らしく見える。