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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
01 第一部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页
一二 押入
一二 押入
その夜は、次郎にとっても、お浜にとっても、まるで思いがけない一夜であった。そして翌朝になると、便所に行くにも、顔を洗うにも、二人は必ず一緒だった。お浜が土間の掃除をはじめると、次郎も何処からか箒を持って来て手伝った。
「まるで鶏の親子みたいだね。」とお祖母さんが笑った。
午過ぎに、本田から歳暮のものを持って直吉がやって来た。お浜は、彼に顔を見られないうちに、そっと裏口から抜けて帰ろうと思ったが、次郎がいつも尻にくっついているので、それが出来なかった。
「おや、お浜さんも来ていたのかい。」と、直吉は台所に腰をおろして、にやりとした。
「ああ、ちょいとこちらに用があってね、でも坊ちゃんにお逢い出来るなんて、夢にも思っていなかったのよ。」と、お浜は土間に立って、次郎に袖を握られながら、言訳らしく答えた。
「今日来たのかい。」
「実は昨日来たんだけどね、皆さんで是非泊っていけっておっしゃるものだから、ついゆっくりしちゃったのさ。……でも、奥さんには内証にしておくれよ。」
「ああ、いいとも。」
直吉の返事は、無造作過ぎて、何だか頼りなかった。
しかしお浜は、どうせ何処からか知れるだろう、という気もしたので、それ以上たっては頼みこまなかった。