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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
01 第一部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页
一七 そろばん
嘘をつくのは泥棒をするのとおんなじですよ。ですから、知っているなら知っていると、誰からでも早くおっしゃい。ぐずぐずしてはいけません。早く言いさえすれば、きっとお祖父さんも許して下さるでしょう。」
お民は、子供たち三人を行儀よく前に坐らして、まるで裁判官のような厳粛さをもって、取調べを開始した。言葉つきまでが、今日はいやに丁寧である。次郎はばかばかしくって仕方がなかった。
本田のお祖父さんは、昔、お城の勘定方に勤めていただけあって、算盤が大得意である。今もその当時使った象牙の玉の算盤を、離室の違棚に置いて、おりおりそれを取り出しては、必要もないのにぱちぱちとやり出す。離室に刀掛も飾ってあったが、お祖父さんにとっては刀よりも算盤の方に思い出が多かったし、自然その方に親しみもあった。かといって、お祖父さんに商人らしいところがあるのかというと、そうではない。人柄はあくまでも士族なのである。若い頃は、恐らく、物静かな、事務に堪能な、上役にとって何かと重宝がられた侍の一人であったろう、と思われる。
ところで、このお祖父さんの算盤に対する愛着は、年をとるにつれて、だんだんと神経的になっていった。