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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
01 第一部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页
三三 看病
だが、それはあくまで二人きりの問題であった。老夫婦も、お延も、しばらくは、まるでそんなことには気がついていないらしかった。誠吉ですらも、自分以上に次郎が謙蔵を窮屈がっているとは、ちっとも考えていなかった。
こうして正木の家も、次郎にとって、完全に幸福な家ではなくなってしまったのである。
三三 看病
そのうちに、一年半の歳月が流れて、次郎もいよいよ六年生になった。
学校では、上級学校入学志望の子供たちに対して、学年始から、特別の課業が始められた。次郎も、その教室に出入りする一人だった。彼は、雲雀の囀る麦畑の間を歩きながら、竜一たちと、ほのかな希望を語りあったりするのであった。
次郎と謙蔵との間の黒い影は、その後、時がたつにつれて、いくらかずつぼかされていった。そして、ごく稀にではあったが、次郎の唇からも、「伯父さん」という言葉が洩れるほどになった。しかし、何もなかった以前の気持にかえることは、むろん望めないことだった。それに、永い間には、二人の間の感情が、老夫婦や、お延の眼に映らないでいるはずがなかった。で、黒い影は、ぼかされていく一方、そろそろと家じゅうの人たちの胸に薄墨のようにしみていくのであった。