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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
01 第一部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页
二 お玉杓子
だから、きっと今に偉くなると思うわ。」
お浜は、それですっかり気をよくした。そして、それ以来、「八月十五夜の月の出」が、いつも二人の話の種になった。話の種になっても、それはちっとも不都合ではなかったのである。と言うのは、次郎の生まれた時刻は、実際その通りだったのだから。
尤も、その時刻に生まれたことが、果して次郎にとって幸福であったかどうかは、疑わしい。それはおいおいと話していくうちにわかることである。
二 お玉杓子
次郎は、お浜の娘のお兼とお鶴とを相手に、地べたに蓆を敷いて、ままごと遊びをしている。場所は古ぼけた小学校の校庭だが、森閑として物音一つしない。周囲は、見渡すかぎり、黄金色の稲田である。午後の陽がぽかぽかと温かい。
この光景は、次郎の心に、おりおり蘇って来る、最も古い記憶の一つで、たぶん、彼の五歳頃のことだったろうと思われる。
お浜一家は、村の小学校の校番をしていた。老夫婦にお浜夫婦、それにお兼とお鶴、都合六人の家族が、教員室のすぐ隣の、うす暗い畳敷の部屋と、その次の板の間とを自分達の住家にしていたのである。そしてそこへ割りこまされたのが次郎であった。