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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

01 第一部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页

青空文庫

一〇 お使い

お民や、お祖母さんが、その晩彼をどう待遇したか、また彼がどんな態度で彼らに反抗したかは、読者の想像にまかせる。ただ、この事件以来、彼がこれまでより一層大胆になり、且つ細心になったことだけは、たしかである。

一〇 お使い

大晦日に近いある日のことだった。

「でも、使に行く者がありませんわ。直吉も今日は町に買物に出ていますし。」と、お民はいかにも忙しそうに、立ったままで言った。

「お糸婆さんがいるだろう。」と、俊亮は長火鉢に頬杖をついて、お民を見上げた。

「こんな時に婆さんの手をぬかれたんでは、やり切れませんわ。どうせ正木へは、二三日中に、歳暮のものを届けることにしていますから、その折、一緒でもよかありませんか。」

正木というのはお民の実家の姓である。

「だが、これは別だよ。先方からもなるだけ早く届けてもらいたいって、言って来ているんだから。」

「そう早く腐るものではないでしょう。」

「腐りはせんさ、鮭の燻製だもの。しかし、正木の方でも正月の御馳走の心組があるだろうし、それに、先方へ礼状を出してもらう都合もあるんだから、一日も早い方がいいよ。」

「貴方は妙なところに性急ね、ふだんは、のんきな癖に。