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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
01 第一部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页
三六 火傷
春子も彼を見つめた。
「いつ東京にたつの?」
「五六日してからだわ。でも、今夜あたしの代りをする人が来るんだから、明日からはその人にやっていただくの。」
次郎は默って歩き出した。すると春子は、
「ちょっと待っててね。」
そう言って奥に走って行った。そして紙に包んだものをもって帰って来ると、
「今日は竜ちゃんがいないから、これ、帰ってから食べてちょうだいね。」
次郎は泣きたくなった。彼はほとんど無意識に紙包を受取ると、默って外に出た。
午後の日は暑かった。彼は大川の土堤に来ると、斜面の櫨の木の陰にねころんだ。そして紙包から菓子を出して、むしゃむしゃたべながら、青空の中に春子の顔を描いていた。
三六 火傷
村の夏祭が近づいて、大川端で行われる花火の噂が村人の口に上るころになると、子供たちも薬屋から硝石と硫黄とを買って来て、それに木炭の粉末をまぜて火薬を造り、毎晩小さな台花火などをあげて、楽しむのだった。彼らは「しだれ桜」だとか、「小米の花」だとか「飛雀」だとか、そういった台花火のいろいろの名称を知っていたが、むろん彼らにそんな巧妙なものが出来ようはずはなかった。