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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
01 第一部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页
二八 売立
「こないだから、すこし可笑しいとは思っていましたが、……ま……まさか、一周忌もすまないうちに、こ……こんな……」
お祖母さんは、俊亮の前に突っ伏して、声をとぎらした。
「次郎、お前は階下で遊んでおいで。」
俊亮は、やはり腕組みをしたまま、わずかに顔を次郎の方にふり向けて言った。
次郎はすぐ階下に降りたが、何だか気がかりで、梯子段の近くをうろうろしていた。そのうちにお民が二階にあがって行った。三人の話し声はいつまでも続いた。次郎は、祖母と母の泣き声にまじって、おりおり聞える父の簡単な、落着いた言葉に耳をそばだてたが、何を言っているのかは、少しもわからなかった。
二八 売立
大っぴらな売立が始ったのは、それから間もなくであった。
ある日、朝早くから、洋服を着た人や、角帯を締めた人たちが、五六人やって来て、目ぼしい品物をすっかり座敷に並べて、大声で叫んだり、小さな紙片に何か書いて、ボール箱の中に投げこんだりした。村じゅうの人たちが、庭一ぱいに集まって来て、それを見物した。中には、洋服や角帯の人たちと一緒になって、紙片を投げこむ者もあった。
人だかりの割に、変にぎごちない空気が、全体を支配した。