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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
01 第一部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页
二一 土台石
」
「もう次郎ちゃんなんかと遊ぶもんか。」
「そうだい。」
「怪我したんじゃないだろうな。」
「そんなことあるもんか。」
「帰ろうや、つまんない。」
「馬鹿言ってらあ、これから、新しい学校に行くんだい。」
「そうだ、次郎ちゃんも、もう行ってるかも知れんぞ。」
「そうかも知れん。早く行こうよ。」
「行こう。」
「行こう。」
みんなが去ったあと、次郎は、荒らされきった校舎の中を、青い顔をして、一人であちらこちらと歩きまわった。廊下にころがっている小石が、時たま彼の足さきにふれて、納骨堂で骨が触れあうような冷たい音を立てた。壁の破れ目から、うっすらとした冬の陽が、射したり消えたりするのも、たまらなく淋しかった。
(乳母やは、もういない。)
彼は、ふと立ち停って、しみじみとそう思った。とたんに、彼の眼から、ぼろぼろと涙がこぼれ落ちた。
二一 土台石
お浜の一家からは、その後、到着を報じたくちゃくちゃの葉書が、年内に一通と、年が明けて十日も経ったころ、次郎に宛てたお鶴の年賀状が来たきり、何の音沙汰もなかった。
年賀状は、真紅な朝日と、金いろの雲と、真青な松とを、俗っぽく刷り出した絵葉書であったが、次郎は、何よりもそれを大切にして、いつも雑嚢の中にしまいこんでいた。