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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
01 第一部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页
しかし、直吉の顔は、頑として南の方を向いたきりで、どうにもならなかった。どうにもならないどころか、直吉の足は、かえってそのために、一層速くなる傾向さえあった。
次郎はしくしく泣き出した。泣き出しても、直吉は一向平気らしかった。彼はずんずん南の方にあるくだけで、口一つ利こうとしない。次郎は泣きながらうしろを振りかえった。学校の建物が夕暮の光の中に、一歩一歩と遠ざかっていくのが、たまらなく淋しい。
こうなると、次郎はあきらめてしまうか、戦うか、二つに一つを選ばなければならなかった。彼は決然として後者を選んだ。――元来、次郎の勇気は学校との距離に反比例し、実家との距離に正比例することになっていたので、戦うならなるべく早い方が歩がよかったのである。
なお、彼が肩車に乗っていたことも、彼にとっては、有利な条件だった。それは、直吉の髪の毛や耳朶を、自由に掴むことが出来たからである。しかも幸いなことには、直吉の髪の毛は相当長かった。彼は早速髪の毛をむしることにした。
「痛いっ。」
直吉は頓狂に呼んだ。しかし、彼の歩いて行く方向は、依然として変らない。従って、次郎の進む方向にも一向変化がないのである。