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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

01 第一部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页

青空文庫

お民の声は、いつになく、しんみりしていた。

次郎は、思わずうしろをふり向いた。すると、ぱったりと俊亮の眼に出っくわした。俊亮は、さっきから彼を見ていたものらしい。

次郎は、うろたえて眼をそらすと、すぐ立ち上って一人で庭に下りた。素足でふむ飛石がひえびえと露にぬれていた。

「次郎ちゃん、どこへ行く?」

他の子供たちがじゃんけんをやめて、つぎつぎに飛石をつたって、彼のあとを逐った。次郎は、池にかけてある石橋の上まで来ると、立ち止まって、うしろをふり向いた。

「綺麗だぜ、月が。」

彼は水を指さしてそう言ったが、眼は庭木をすかして座敷の方を見ていた。座敷では、四人がまだ額を集めて話しこんでいる。

子供たちは、それから、池に小石を投げたり、樹をゆすぶったり、唱歌をうたったりして、遊んだ。次郎もいつの間にか、彼らと一緒になってはしゃぎ出した。そうなると、もう飛石も地べたもなかった。彼らは跣足でめちゃくちゃに走りまわった。

「次郎! 次郎!」

二三十分もたったころ、俊亮の声が縁側からきこえた。そのまるまるした体が、室内の燈火を背にうけて、黒々と立っている。次郎は、飛石に足のうらをこすりこすり父のそばに行った。