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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
01 第一部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页
だから、あたりまえなら、誠吉は、他の子供たちにくらべて、そう不幸なはずもなく、謙蔵に対して変な気など起す理由は少しもなかったのである。
罪はむしろ母のお延にあった、彼女は、必要以上に自分の境遇にひけ目を感じていた。その結果、自分だけが遠慮深く振舞うだけでなく、誠吉にもそれを強いた。謙蔵の目の届くところでは、ことにそれが甚しかった。台所の方のことは、大ていお延に任されていたが、彼女は誠吉を偏愛するとみんなに思われたくないところから、わざわざ誠吉の食物を他の子供たちよりも悪くしたり、何かの都合で、肴などが人数に足りないと、誠吉だけに我慢させたりした。また、誠吉が従兄弟たちと一緒に何かいたずらでもすると、叱られるのは、いつも誠吉だけだった。しかも彼は、しばしば謙蔵の前で謝罪を強いられるのだった。謙蔵は、そんな場合、深く取りあいもしなかったが、悪戯の性質上、それが一番年下の誠吉の罪でないと見ると、彼は自分の長男の久男や、二男の源次を呼んで、ひどく叱った。お延は、そうなると、ますますうろたえて、自分は自分で、誠吉にうんと叱言を言うのだった。
次郎が正木に預けられる少し前、お延は、亡くなった姉のあとに直って、謙蔵と結婚することになったが、そうなると、彼女はいよいよ、人前で誠吉に叱言を言ったり、差別待遇をしたりすること