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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

01 第一部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页

青空文庫

次郎は、そう言われただけでは、むろん返事のしようがなかった。彼はただ、自分のことについて、父が何か重大なことを言い出そうとしていると思って、いよいよ固くなるばかりであった。

「母さんも、もう二三日すると、こちらにご厄介になることになったんだよ。」

次郎はわけがわからなかった。しかし、自分の予想していたこととは、話が大ぶちがっていそうに思えたので、いくらか安心した。そして、まじまじと父の顔を見た。

「お前にはまだ知らしてなかったが、母さんは病気になってね。」

俊亮の声はいやに淋しかった。彼はまだ何かつづけて言うつもりらしかったが、それだけ言うと急に默りこんでしまった。すると正木のお祖母さんが、すぐそのあとを引きとって、愚痴っぽくいろいろと話をした。それによると、お民の病気は肺で、町の狭くるしい、陰気な家にいては、ますます重くなるばかりだから、お祖父さんの発意で、こちらでゆっくり養生することになった、というのであった。

むろん、俊亮の経済的な窮迫とか、本田のお祖母さんの病人に対する仕打とかについては、一言も話されなかった。しかし、次郎は話をききながら、そうしたことについても、大ていは想像してしまった。