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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
01 第一部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页
」
次郎の頭には、竜一が「すぐ親類が出来る」と言った言葉が、電光のように閃いた。そして、急に竜一の顔がにくらしくなり、もう相手になって話したくないような気にさえなった。しかし、一方では、いつまでも竜一にくっついて、どんづまりまできいてみないではいられないような気もした。
「いつ帰るんだい。」
「学校が始まるまでに帰るよ。」
「母さんもかい。」
「うむ、だって僕一人では帰れないんだもの。」
「姉ちゃんは?」
次郎は何でもないことをきいているように見せかけようとして、竜一と肩を組んだが、その声は変に口の中でねばっていた。
「姉ちゃんも一緒に帰るよ。」
次郎はほっとした。同時に、竜一の肩にかけていた彼の腕が少しゆるんだ。しかし、竜一はつづけて言った。
「だけど、またすぐ東京に行くんだろう。東京にお嫁入りするんだから。」
次郎は、木の枝から果物をもいだ瞬間、足をふみはずして落っこちたような気がした。
まもなく始業の鐘が鳴った。次郎は教室に這入っても春子のことばかり考え続けた。竜一の言ったことは、まるで出たらめのような気もした。しかし、それにも拘らず、春子が遠くに消えていくたよりなさが、一秒一秒と彼の胸の奥にしみていくのだった。