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よあけのつじ

夜明けの辻

山本 周五郎

「新国民」1940(昭和15)年12月~1941(昭和16)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,801 字 · 86 页

青空文庫

「東寿……歩けるか」

大弐は足を止めて振返り、笠をあげながら呼びかけた。

「悪い日に来た。こんなではないと思ったものだから津田どのの止めるのを振切って来たが、どうもこれではおまえには無理だった」

「もったいない仰せ、わたくしは血気の体でございます。足が遅くて申訳ございませんが、少しも難儀ではございません」

そう云って振仰いだ青年の顔は、両眼とも盲いていた。頭の坐りの異様なのは彼が盲人だったからであった。

「意地を張らずに帰れと申したいが、ここまで来てしまってはそうもならぬ。我慢してみるか」

「その御心配では辛うございます」

東寿と呼ばれる盲青年は、盲いた眼をかなしげに、大弐のほうへ振向けながら云った……言葉つきにも、振向けたその表情にも、知らぬ者だったら、恐らく冷たい手で心臓を撫でられるようなものを感じたに違いない。彼はその体ぜんたいに、えたいの知れぬ軟体動物のような粘っこさを持っていた。

二人は道を進んで行った。

坂にかかってもう二十丁は登ったであろう。真北に向いた斜面で吹きつける粉雪は力も緩めず眼界を遮る。今は背に受けているからいいが、下るときの困難さが思いやられた。