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よあけのつじ
夜明けの辻
山本 周五郎
「新国民」1940(昭和15)年12月~1941(昭和16)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,801 字 · 86 页
俗に権現平と呼ばれている坂の中途で、やや平坦な迂回路へさしかかった時……東寿はふと足を止めてしまった。
「……東寿どうしたか」
大弐が呼びかけた。
「人が尾けてまいります」
「……人が来る」
「どうも気になっていたのですが」
東寿は頭を傾げ、遠くの物音を聞き取ろうとするように、しばらくじっと呼吸をのんでいた。枯れた梢にひょうひょうと風が鳴っている。林のそこここで、枝から雪塊の落ちる音が聞える……しかし大弐には、その他になんの物音も聞えなかった。
「尾けてまいります」
東寿が呟くような声で云った。
「先生、その辺にお体を隠す場所はございませんか」
「もう少し先に権現堂が見える」
「それはいけません。林の奥か藪の蔭か足跡を尾けられぬ処へお隠れください」
「杣人か猟人などではないのか」
「違います。わたくしの耳に刻みついている歩きかたです。深谷の駅まで尾けて来て、それ以来聞えなくなったあの歩きぶりです」
「では一人ではあるまい」
「増えております。あのおりは三人でございました。今は五人……ことによるとそれ以上おります。どうぞ早く」
「だがその人数に東寿独りでは」
「先生」
東寿の声はなんとも云いようのない哀切な響をもって大弐を制した。