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よあけのつじ
夜明けの辻
山本 周五郎
「新国民」1940(昭和15)年12月~1941(昭和16)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,801 字 · 86 页
いったい何ごとがあったのだ。江戸屋敷の者が四人も、国許へ潜入して来て、この山中で死体になっている……四人が果合いをしてともに死んだのか、それとも誰かに四人とも討ち果されたのか、もしそうとしたら相手はどうしたか、まだこの山中にいるだろうか。
吹雪はますますひどくなる、凍ての烈しい風が、櫟林の梢を払ってひゅうひゅうと鳴っていた。
「そうだ、思いだした」
孫次郎がふいに眼をあげた。
「なにを……」
「この傷、一刀致命の刺傷、こんなみごとな突をするやつは他にない。あいつだ」
「……誰だ」
「長谷川東寿という、やはり鈴木先生の道場にいた門人で、まだ二十一か二だろう。両眼とも盲いているが技はすばらしかった」
「盲人? 盲人で剣を使うのか」
「使うどころではない、鈴木門中でそいつの突を受けきれる者は一人もなかった……我々は盲無念と呼んでいた」
「盲無念とはどういう意味だ」
「意味は分らぬ。誰が呼ぶとなく、いつかしらそういう名が付いてしまったのだ……いまこの突傷を見ると、歴々と彼の姿が見える。少し前かがみになって、見えない眼を空へ向けながら、小太刀を籠手高に構えた姿が……あいつだ。