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よあけのつじ
夜明けの辻
山本 周五郎
「新国民」1940(昭和15)年12月~1941(昭和16)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,801 字 · 86 页
「降るなかを御苦労であった」
頼母は待兼ねていたように挨拶をそこそこに受けて云った。
「じつは大任を頼みたいのだ」
「拙者に勤まることでございましたら」
「県先生が暴漢に襲われてな」
「……暴漢に」
ちらと道之進は伊兵衛の顔を思いだした。
「今朝、地理を観るために鬼鉾山へ登られたのだ。この雪だからといちおうはお止め申したが、先を急ぐからとの仰せで、東寿どのとお二人で登って行かれた。すると……権現堂のところで、あとを尾けて来た七人の者が、有無を云わせず斬ってかかったそうだ」
「して先生には!」
「東寿どのは盲人ながら稀代の剣士とみえ、七人のうち四人までその場に討止め、無事に戻ってみえられたが……その暴漢が困ったことに家中の者なのだ」
道之進は息をのんだ。ふたたび伊兵衛を思ったのである、しかしその疑いはすぐに解けた。
「家中と申しても国許の者ではない。みな江戸屋敷の人間で、江戸からずっと先生を尾狙って来たらしい」
「なんのためにさようなことを」
「まだそのもとには知るまいが、江戸の老職吉田玄蕃とわしとの推挙で、県先生をお上の賓師におすすめ申してある。このたび当地へ講演にお招き申したのもその手順の一であるが……江戸表重役のうちに反対する者があってな」