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よあけのつじ

夜明けの辻

山本 周五郎

「新国民」1940(昭和15)年12月~1941(昭和16)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,801 字 · 86 页

青空文庫

頼母は肥えた体をかがめながら、ふと声を低めて続けた。

「それは、ただ県先生を賓師に迎えることに反対するのではなく、御政治向きの反目が根をなしているのだが」

「松原どのでございますか」

道之進は大胆に云ってのけた。

織田美濃守の家中に二つの勢力が対立している。一つは江戸家老吉田玄蕃、国家老津田頼母、この両者の系統に属する一派、他の一つは江戸表用人松原郡太夫、津田庄造、同じく年寄役柘植源右衛門らとその一派である……吉田、津田の一派はひと口に云うと進取派で、旧い政策を捨て、藩政を新しく改革しようとしている。松原郡太夫の一派は旧守派で、ただこれ古い権力政治を押通そうとしていた。

しかし、この二つの勢力争いには、さらにもう一つ複雑な条件が加わっていたのである。

それは――。

現藩主、美濃守信邦は養子で、実父は高家の織田少将信栄であった。この信栄は権勢を好む人で、藩主の実父という位置をかさに、小幡の藩政を思うままにしようとしていた……松原郡太夫一派は、この少将信栄とあい結んでいたのである。

むろん、こういう家中の対立は隠密なものであった。何人も口にすべからざることだった。