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よあけのつじ

夜明けの辻

山本 周五郎

「新国民」1940(昭和15)年12月~1941(昭和16)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,801 字 · 86 页

青空文庫

燭台の光がそこまではよく届かないので、いちいち顔は分らないが、軽輩のなかでも年少の者たちのようだ。婦人たちがいたり、身分違いの軽輩がいたり……講演者の希望か国老の発意か、いずれにしてもこういう席にはかつてない、型破りなものである。

「……さて得一と申すのは」

講演者の眼が静かに一座を撫でた。

「すべて道の治るところ一なりという意味であります。天に二つの日輪はない、大地の他に大地はない、万民の君たるべきものまた一であります。忠臣は二君に事えず、烈女は二夫に触れず……これを得一と申します。天下の理はかように一を得て初めて泰平といたしますが、世が衰え紊れる時にはこの理が崩れてくる。婦女は貞節を忘れ、士は二君に事えて耻じず、禄と位とその本源を二つに分つ。これによって名を好むものは彼につき、利を好むものはこれに従う。名利と情慾と相分れてついには乱世となるのであります。禄位その本源を分つと申しました。これを当代にたとえてみますと、ただ今の幕府は征夷大将軍として天下を一統しており、また諸国の大小名に秩禄を与えておりますが、これは侯伯士太夫の爵位を授けることはできません……恐れながら、朝廷におかせられては、爵位をお授けあらせらるることはあっても、秩禄をお与えになることはおできにならぬ。