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よあけのつじ

夜明けの辻

山本 周五郎

「新国民」1940(昭和15)年12月~1941(昭和16)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,801 字 · 86 页

青空文庫

道之進はぎょっとしたようすで振向いた。

伊兵衛は唇尻に微笑を湛えながら、なんだという表情で見返していた……年齢はまだ二十五であるが、道之進は出頭の近習番として家中の人望を一身に集めている。国詰でありながら召されてしばしば江戸へ出府するくらい、藩主美濃守信邦にも寵愛されている。

これに対して功刀伊兵衛は、家柄こそ藩の老職格であり、一枚流の剣では随一の名をとってはいたが、家中の評判はあまり好ましくなかった。彼は『曲軒』という綽名をもっている……ともするとなにかひと理窟こねるし、異説を建て、人と和する法を知らない。つまり臍が曲っているというくらいの意味である。彼にすれば付合をもよくしたいし、あえて異説を唱えるつもりもない。要もない理窟などはこっちが御免なくらいである。それにもかかわらず、彼が一言なにか云えば捻くれた理窟になり、すこし自分の意見を述べると異説を建てると云われる。

――勝手にしやがれ。

と思うが平気でないのは事実だ。

人望を集めてめざましく出世する道之進と、こうして人好きのしない、どこかぎすぎすした伊兵衛とを、一緒に結びつけている友情は奇妙なものだった……伊兵衛は道之進が嫌いである。