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よあけのつじ

夜明けの辻

山本 周五郎

「新国民」1940(昭和15)年12月~1941(昭和16)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,801 字 · 86 页

青空文庫

だからこそ、母の反対を押切ってまで佐和を嫁にやる約束をしたのだ。

ところが彼はこんなふうに本心をさらけだした。婚約の破棄はまず措くとして、あれほど傾倒しているかに見せた山県大弐への態度が、じつはおのれの立身の手段であったとは赦しがたい。事実だとすれば、それがもし事実だとすれば……いや! 人間はそんな陋劣にはなれぬはずだ、心の企む不善にも限度がある。そこまで自分を卑劣に堕すことは不可能だ。

――おそらく彼にはなにか思案があるのだろう。国老とのあいだに意志の齟齬する点があるのに違いない。

伊兵衛は一縷の希望にたどり着いて、

「来栖は屋敷におりましょうか」

と顔をあげた。

「止めたほうがよい」

頼母は静かに頭を振った。

「会ったところでどうにもならぬ。ことにそのもとへ追捕の命令が出ている。ことここに及んでは小幡に留っても無益じゃ。県先生によって発明するところがあったなら、その道のために身を捧げるがよい……世中へ出て行け、そして先生の教える正しき道を、少しでも多く世の人々に伝えるがよい」

「拙者は来栖に会います。そのうえで仰せのようにいたします」

「自ら死地に入ると同様だぞ」