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よあけのつじ
夜明けの辻
山本 周五郎
「新国民」1940(昭和15)年12月~1941(昭和16)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,801 字 · 86 页
「拙者はそうたやすくは死にません。また死ぬことを怖れてもおりません……御家老、また改めて御意を得ます」
「待て。どうしても会いたいならわしが手紙で呼び出してしんぜよう。そのもとは崇福寺の門前で待っているがよい。来栖がそこへ行くよう手配をする」
「しかし、彼が来ましょうか」
「来なかったら押掛けても遅くはないであろう、大丈夫行くと思う」
「ではお願い仕ります」
伊兵衛は津田邸を辞した。
外へ出てから、崇福寺の梅叟和尚がかねて松原郡太夫一味であったということに、伊兵衛は気付いた……そうだ、道之進がもしこれで崇福寺へ来るとすれば、松原一味に寝返ったことも明白になる、そう思った伊兵衛は、そこで自らひとつの決意をもたなければならなかった。
寺へ近づいた彼は、山門の前にある茶店の軒下へ入った……昼だけ茶を汲む老婆がいて、夜になると誰もいないから、夜風、人眼を避けるには屈竟である。
しかし長く待つ必要はなかった。
遠い跫音を耳にしたので、伊兵衛がそっと覗いて見ると、提灯の火が一つ、急ぎ足にこっちへ近寄って来る……じっと身をひそめたまま待っていると、それはまさに来栖道之進だった。