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よあけのつじ

夜明けの辻

山本 周五郎

「新国民」1940(昭和15)年12月~1941(昭和16)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,801 字 · 86 页

青空文庫

言葉の綾や巧みな云い廻しではもうごまかされない。いいか、貴公も武士だ。つまらぬ見栄や外聞を棄てて本心を云ってくれ」

「拙者の……山県先生に対する気持は、以前と少しも変ってはいない。それは、武士の名に賭けて誓う。しかし功刀……いま幕府は先生を捕縛する手段をととのえている。このまま棄てておいてはお家に重大な累を及ぼすのは必定だ」

「それで先生を幕府へ訴えたのか」

「功刀、それは違う。そんなことを、拙者がすると思うか」

「もっとはっきり云え。おれの眼を見ろ、おれの眼を見てはっきり云うんだ」

「拙者は知らん。誰が貴公にそんなことを云ったか知らぬが拙者の知ったことではない。松原郡太夫一味か、少将さまの手で」

「黙れ、黙れ来栖」

伊兵衛はつと立った。

「それなら訊くが、今夜なんの要があってここへ来た。梅叟和尚はかねて松原どのに一味の仁と知っているだろう。その和尚のもとへ、なんのために忍んで来たのだ」

「……それは」

「偽せ手紙と知らずに来た。それがきさまの本心を語っていることに気が付かぬか」

「…………」

「来栖、おれは、きさまを斬るぞ」

蒼白になった道之進の顔を、さっと恐怖の色が走った……それはどたん場に追詰められた野獣の表情に似ていた。