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よあけのつじ

夜明けの辻

山本 周五郎

「新国民」1940(昭和15)年12月~1941(昭和16)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,801 字 · 86 页

青空文庫

「馬鹿なことを」

雪の密度が濃くなった。

二人は互いの屋敷へ別れる路上へ来ていた……すっかり寝鎮まった武家屋敷はしんかんと音もなく早くも一寸あまり積った雪で、通り馴れた街辻がまるで見知らぬ他国へ来たような印象を与える。……道之進は立止って、

「山県先生の説が新奇だということは認める。在来の学者たちがかつて触れたことのない、多くの重要な問題をとりあげているし、その説く方法も型破りな点が多い。けれど先生の論理は非難さるべきいささかの不条理もないはずだ」

「本当にそう思うか、拙者の云うのは言葉じゃないぞ。言葉は人間が拵えたものだ。どうにでも取繕ったりごまかしたりすることができる……しかし言葉の裏にある本心はごまかせない。拙者は大弐の説がなにを暗示しているか見抜いているんだ」

「それはひとつ聞きたいな。貴公が山県説の核心を掴むほど、学識の深い男とは気がつかなかったよ」

明らかに嘲笑である。腕力はべつだがそういう議論になれば、どう発展しようと道之進は勝算を持っている。伊兵衛くらいの頭で組立てられた理論なら、それが正当であろうとなかろうと即座に叩き潰す自信があるのだ。