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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

それがにわかに足を止めて目明しと若い武士とへ向かったのである。

距離が少しくへだたっていたので、五人の中年の逞しい武士の姿は仔細にはわからなかったが、いずれも目立たぬ扮装をして、いずれも編笠を真深にかぶって、そうして袴を裾短かにはいて、意気込んでいるということだけは十分に看取することができた。で、じっと静まっている。で、もし目明しと若い武士とが、執念く儒者ふうの老人へ、追いすがってでも行こうものなら、五人の中年の逞しい武士は、いっせいに抜いて叩っ切るであろう。

そこで老売卜者が声を上げたのである。「おッ、危険だ! 切り合うぞ!」と。

が事件は案じたほどにもなく、呆気なく無事に終わりをつげた。すなわち目明しと若い武士とが、五人の中年の逞しい武士の、不意の敵対に胆を奪われたように、ギョッとした塩梅に立ちすくんだが、駄目だと観念をしたのであろう、人波をくぐってもと来たほうへ、引っ返してしまったからである。

「ああ安心、これでよかった」声を漏らした老売卜者は、のばした首をもとの座へ据えたが、眼では儒者ふうの老人を、なおも熱心に見守った。

そういう事件のあったことを、少しも知らないというように、儒者ふうの老人は変らぬ姿勢で、おおらかに足を運んでいた。