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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

むしろ神々しい姿である。と、まもなく両国橋の、橋詰めの擬宝珠の前まで行った。そうしてそれを渡りかけた時に、逞しい中年の五人の武士が、追いついてすぐ囲繞した。六人が橋を渡って行く、河風が吹き上げて来たからでもあろう、身の長の高い儒者ふうの老人の、編笠を洩れた長髪が、二、三度斜めになびいたが、それさえ気高く思われた。

こうして一行が見えなくなった時に、太い溜息を一つ吐いたが、老売卜者は腕を組んだ。

「いよいよ大先生に相違ない。護衛の人たちを連れておられる……では大先生には三宅の島で、おなくなりなされたのではなかったのか? ……それにしてもこのような江戸の土地などへ、いつからお乗り込みなされたのであろう? ……どうともしてお住まいを突きとめたい、そうしてお預かりの品を、どうともしてお手へ渡したい」

瞑目をして考えている。陰惨としていた顔の上に、歓喜の色が浮かんだのは、明るい希望が湧いたからでもあろう。が、まことに不思議なことには、その歓喜の色なるものが、にわかに顔から影を消して、反対のものが現われた。疑惑と不安との色なのである。それは老売卜者の心の中へ、儒者ふうの老人の呼びかけた言葉が、この時甦生って来たからであった。