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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

しかしどうやら尾羽打ち枯らした、みすぼらしい浪人のようすである。少しばかり酒気も帯びているらしくて、歩く足つきが定まらない。高台寺、常林寺、永昌寺、秦宗寺を通れば広徳寺で、両国についでの盛り場であったが、今夜は妙にうら寂しい。おでん、麦湯、甘酒などの屋台店が出ているばかりである。と家蔭から一人の女が白い手拭いを吹き流しにかぶって、菰を抱いてチョロチョロと現われたが、「もしえ、ちょいと」と声をかけた。「ふん」と浪人は鼻を鳴らしたが、「二十四文も持ってはいないよ」錆のあるドスのきく声であった。「いやはや俺も夜鷹風情に声をかけられる身分となったか。どこまでおっこちて行くことやら」でヒョロヒョロと先へ進んだ。往来が突きあたると常照寺になる。向かい合ってタラタラと並んでいるのはお筒持ちの小身の組屋敷であったが、そこを右へとって進んで行けば、寂しい寂しい鶯谷となる。そっちへ浪人は歩いて行く。と、にわかに足を止めたが、グッと前方を睨むようにした。

「うむ、ありゃ爺めだ!」わずかばかり思案をしたようであったが、すぐに足音を忍ばせて、シタシタシタシタと追っかけた。「私情からいっても恨みがある。