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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页
公情からいえば主義の敵だ。どうせ生かせてはおけない奴だ」――でシタシタと追っかけた。そういう恐ろしい浪人者につけられているとは感づきもせずに一人のわびし気な老人が、二間あまりの先を歩いている。両国にいた大道売卜者であった。いつものように店の道具を、一軒の懇意な水茶屋へ預けて、深い考えに沈みながら、ここまで歩いて来たのであった。
「準頭に赤色が現われていた。赤脈が眸をつらぬいていた。争われない剣難の相であった」先刻方自分の人相を、刀の平へ写して見た時、それが現われていたことを、今改めて思い出したのであった。「それでは俺は殺されるのか。誰がこの俺を殺すのだろう? ……ああ死にたくない死にたくない! ……大先生にお遭いしなければならない。お遭いするまでは死なれない。……お遭いして品々をお渡ししたい。……ああそして巻き奉書を!」ツト懐中へ手を入れると巻き奉書をしっかりとつかんだ。
「恐ろしい恐ろしい巻き奉書だ、幕府の有司の手に渡ったら、上は徳大寺大納言様から、数十人の公卿方のお命が消えてしまわないものでもない。のみならず下は俺のような廃者さえも憂目を見る」――それにしても老売卜者は巻き奉書があんな偶然の出来事から、自分の手へはいったということについて、一面この上もなく不思議に思い、他面感謝をしたくなった。