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しんちょうき

新潮記

山本 周五郎

「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页

青空文庫

という声がして、この少年の兄とみえる少し年嵩のもうひとりの少年が、藤田家の門の中から提灯を持って出て来た。

「兄さん此処だよ」

「ああそこにいたのか、先へいってしまったのかと思った」

近寄って来た兄のほうも、秀之進をみるとびっくりしたように足をとめた。これは弟と違って温和しそうな、色白の眼の涼しい顔だちである。提灯の光りにうつしだされた弟のほうは(藤田小四郎、つまり後に天狗党を興して筑波の義挙を決行した)眼の大きな、ひきむすんだ口許のいかにも意思の強そうな、きかぬ気の顔つきだった。

「なにをしているんだ、ゆこう小四郎」

「いまゆくよ」小四郎はまだ秀之進をにらみつけていた、「このさむらいがなにをぐずぐずしているのか見届けたらね」

「……失礼じゃないか」兄が低いこえでたしなめた、「そんなことを云う者があるか、いいからゆこうよ」

「どこへゆくんですか」

秀之進が兄のほうへそう呼びかけた。

「螢をとりにゆくんです」

「そうですか、小四郎さんがご心配のようだから、では拙者も宿へ帰りましょう、いっておいでなさい」

そう云って秀之進が踵をかえすと、兄弟は安心したように反対のほうへ去った。