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しんちょうき

新潮記

山本 周五郎

「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页

青空文庫

それは久木直二郎だった。

「やっぱりそうでした」

秀之進を客間へ導いて来ると、久木直二郎はあけっぱなしな調子で云った。

「この男ですよ、どうしても名乗らないで、謝るくらいなら斬合いをするほうがいいと云ったのは、おい貴公、早水というそうだな」とせっかちにふり向き、「けしからんぞ貴公は」

「…………」

「あのときおれの刀は貴公の衿まえを裂いた筈だ、いや先生」と再び東湖にふり返って、「つまり拙者はそこで勝ったぞと云ったんです」

それまでその話をしていたらしく、久木はそのあとをつづけるように云った。

「たしかに拙者の刀の切尖はかれの着衣の前衿へ届いていましたから、それを指摘するとかれも『いかにも』と云いました、ところが別れてからあとで、昼食をとるときでした、汗を拭こうと思って袴をとると、袴から帯まで七寸も斬られているんです、それを見たときはぞっとしましたよ」

「だらしのない男だ」東湖が笑いもせずに云った、「そこでぞっとしたってしようがないじゃないか」

「けれどもぞっとしたんだから仕方がないですよ、……おい早水、そこで改めて訊くが、貴公はおれの胴をとったのを承知していたのか」