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しんちょうき

新潮記

山本 周五郎

「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页

青空文庫

「つまらぬことを訊くやつだ」

東湖がそういいかけるのを押しきって、直二郎はまたぐいとこっちへ向き直った。

「おれの勝だとおれがいったとき、貴公は自分もおれの胴をとっていたわけだが、それを知っていたのか、どうかね」

「さあ、それは……」秀之進はちょっと口を濁した、しかし久木の眼つきは真剣なので、どうでも返答は避けられぬと思ったのであろう、少しいいにくそうな調子でこう答えた、「それはしかし、当然のことではないかと思いますがね」

「どう当然なんだ」

「あのような打込みになればは一方勝負というわけにはいかぬでしょう、あなたの太刀がわたくしを斬れば、わたくしの太刀も必ずあなたを斬っていますよ」

「つまり貴公は知っていたわけなんだな」

「……知っていました」

「それでどうしておれの勝ち名乗りを黙っていたのかね、おれが貴公の衿前を斬ったといったとき、どうして貴公も自分が胴をとったことをいわなかったんだ」

「必要を認めなかったからです」

「なぜ、なぜ必要を認めなかったんだ」

秀之進は黙っていた。久木はその面を噛みつくように睨んでいたが、やがてさっとその顔へ血ののぼるのが見えた。

「必要がないというのはおれを見下げたからか」