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しんちょうき
新潮記
山本 周五郎
「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页
一語も聞きのがすまいと、秀之進はじっと耳を澄ませていた。
「だから開国が必至のものであることは、心ある者なら認めざるを得ないだろう、しかもそれは日本にとって初めての経験ではない、三韓、唐、清、オランダ、いろいろの邦と交通し各国の文物をとりいれて、独自の文化を築きあげてきた、こんどは単に三百年の鎖国を解くだけのことだ、しかし、ただ一つだけ問題がある」
そう云いかけて東湖はぐいと坐り直した、かれは肥えているのでながく正座していることはなかなか辛いと思えるのだが、ときに議論でも始まると一刻でも平気で正座したままでいられた、今も坐り直したのは足が疲れたのではなく人が本音を吐くときの身構えだったにちがいない。
「われわれは遠いむかしから異邦の文物を吸収することに長じていた、いかにもすなおに異邦のものを受け容れる、これは長所であると共に短所でもある、そして在来はそれによって国家的に大きな害悪はなかったのだ、けれども今は事情が違う、いま日本の環海を窺う異邦の民族は、東洋をおのれの資源庫にしようとしている、臆測ではない、現に南方の諸地域は多くかれらの植民地となっている、だから開国してかれらの文物を容れる場合には、まず日本人ぜんたいが、国家と民族との自覚をたしかにしなければならない」