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しんちょうき

新潮記

山本 周五郎

「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页

青空文庫

しかし二人ともそんなことにはすこしも気づかぬようすだった。

「初めてあんたと会ったときに、封建の思想が崩壊しつつあると云った、それは外から来たものではない、外夷の来航による刺戟もあるにはあるけれど、封建思想の崩壊はむしろ内側から生じたものだ、人間は絶えず進む、世の中も進む、武家法度で治めることのできた社会が、その法度の最大極限からはみ出るときが来た、人間感情が封建政体の範疇から溢れ出るときが来たのだ、幕府の施政が誤っていたということをよく聞くが、そんなことは末節の問題にすぎない、要点はどこまでも人間の進歩したことにある」

ぐいと上躰を前にかがめながら、東湖は言葉に力を籠めてつづけた。それは苦痛の表白とも思える切実なひびきをもっていた。

「この新しい転換、封建思想の根本的な崩壊は、武家全体にとっておそろしい試煉になるのだ、そして、もうそれは始まっているんだ、日本じゅうどこの藩でも新旧二派が相剋しているといった、それは崩壊に当面している苦悶なんだ、旧態を守ろうとする者それ自身が新しく生きようとする苦悶なんだ、甲辰の事はたまたまそういう時期に起こった、最も水戸の盾となるべき高松が、却って検非違使となって水戸に臨んだ、そこから本枝離反が生じた、しかしそれは表面の事実にすぎない、その裏にこそ真の理由がある、……時代の