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しんちょうき
新潮記
山本 周五郎
「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页
苦悶だ、昏迷とあがきだ、生きようとするもがきだ」
いつか黄昏のようにうす暗くなっていた部屋の中へ、なにかが折れ込みでもするように、ぴかりと電光がはしり、殆んど同時にぱりぱりっとはじけるように、すさまじい雷鳴がこの家の上へのしかかった。東湖は口をつぐみ、その雷鳴の終るまでじっと眼をつむっていた。
「みんな悩んでいる」やがて低く、呻吟する人のように東湖はつづけた、「新しい潮へ乗りだすために、日本という大きな船とその乗員とはひとしく磯の荒波に揉まれているんだ、本枝和解などは末の問題だという意味もそこにある、水戸高松の離反、各藩における新旧二派の拮抗相剋、それはそれ自身ひとつの胎動だ、陣痛なんだ、痛みを止める必要はない、苦悶を救う必要はない、その痛みと苦悶のなかから新しい生命が発して来るのだ」
言葉のつづきを叩き潰すように又してもすさまじい電光がはしり雷鳴がおこった。雷はどうやら近くに迫ったとみえ、追いかけ追いかけ鳴りはためき、やがて沛然として雨がやって来た。
「高松藩の事情の複雑さは」と東湖は雷鳴に構わず云った、「それを一つに纒めることが先決問題だと云ったが、その意味は和合統一を計れというのじゃない、それは直接調停よりも困難だ、一つに纒めるということは、両者の拠って立つところを毀し、つまり破壊だ、目的は一つしかない