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しんちょうき

新潮記

山本 周五郎

「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页

青空文庫

「なんだか、わけがわからない、若旦那、なにか粗相でも致しましたんですか」

「猿芝居はよせ、おまえ自分がどんな顔をしているかわからないのか、江戸っ子ならみれんなまねはするな、誰にたのまれたか云えばいいんだ」

「だってあたしは、決して」

「大さん勘弁してやり給え」千吉郎がついに笑いだした、「寒竹先生じゃ張合がなさすぎるよ、頼んだ相手はわからないが、こんな男を本気で使うようでは多寡が知れている、いいから放してやり給え」

「わたくしは構いませんが、貴方がたにご迷惑がかかるといけませんから」

「大さんにも似合わない、そんなことが心配で仕事ができるものか、みんないざというときの覚悟はできているよ、寒笑ごときの密告によらずとも、われわれの首を覘うとなればいくらも材料はあるんだ、可哀そうに死ぬほど蒼くなっているじゃないか、寒竹先生、もういいからいけいけ」

「へえ……どうも、どうも」

寒笑は罠を脱した狐のように逃げだそうとした。大助が呼びとめた。

「おい、大河さまにお礼を申上げないか、おまえ首がないところだったんだぜ」

「へえ……どうも、大河の旦那」

寒笑は口が利けなかった。まるで消えるようにとびだしてゆくかれを見送って、一座の人々は憎めない奴だと笑いだした。