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しんちょうき
新潮記
山本 周五郎
「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页
宗兵衛は苦い顔をして脇のほうへ眼をやった。それは痛いところを刺止められた人の表情だった。宗兵衛は水戸学派に心酔し、殆んど傾倒していたといってもよい。然し斯学の根底をなすものが偏狭であり、大義に執する余り矯激にわたる弊のあることを知っていた。然しそういう批判をもったのは彼の経験と年齢のゆえで、青年たちは例外なくそこに情熱の解放をみいだすものと信じていた。
――こいつは己よりも遠いところへ眼をつけている、宗兵衛は心の中でそう呟いた。若い者のなかには己たちよりじじむさい考え方をするやつが出はじめた。然しこれらもやはりなにかの役には立つのだろう。
「使者の役目はどうなった」宗兵衛はこう話頭を変えた、「藤田先生は周旋して下すったか」
「先生は無用だと仰しゃいました」
「ふむ、……」云わぬことではない、宗兵衛はそう云いたげに唇を曲げたが、「それで、亀阜荘さまへはどう復命する積りなんだ」
「さし当っては徒労に終った旨をお伝え申し、私の思案は別に申上げようと存じます」
「すぐ帰国するか」
「太橋の大助が木曽へ商用にまわるそうで、幸いですから私も同行しようと思います」
「商用で木曽……」