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しんちょうき
新潮記
山本 周五郎
「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页
陽はもう高く、乾いた道の埃に照りかえしてぎらぎらと眼に痛い、しかし二人は時どき後ろを振返るだけで、あとは熱心に話し耽りながら、大股に歩きつづけていった。
「この二つの伝説は、禅宗を価値づけるためには絶好のものだ、しかし時宗や楠公が禅によって或る決意を固めたという、話そのものはとるに足らぬともいえるが、そういう伝説が弥蔓したところに生ずる観念を思うと、とるに足らぬとは云いきれない問題が起こってくる、現にみろ、武士道は禅と儒教の影響を吸って全きを得たといわれている、だいたい武士道というものは、日本人の純粋な心のあらわれだとおれは信じている、……これは久米の子らの精神なんだ、武家時代にはいってから直接の主人に対する忠というかたちをとって来たけれども、その真髄にあるものは久米、大伴らの氏かばねが皇統を護る精神なんだ、そこには禅や儒教などの影響は少しもありはしない」
「然し宗教というやつは善かれ悪しかれ宣伝的なものを持つのじゃないのか」
「神社に宣伝があるかね」秀之進はこう反問した、「長者の万燈より貧者の一燈という、これは寄進の要求だろう、四万六千日とか彼岸とかの類は参詣の約束だ、……我われの神社にはこういう要求や約束はない、西行の作だと伝えられる歌に、なにごとのおはしますかは知らねどもかたじけなさに涙こぼるるとある、