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しんちょうき

新潮記

山本 周五郎

「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页

青空文庫

なんの約束もなくして無念無想に低頭できる神社の存在、……宗教としてこれほど純粋なものが他にあるかね」

秀之進は眼を空へ向けた。秋を思わせる白い流れ雲の間に、たとえようもなく美しい紺青の空が澄みあがっている。彼はいまその碧色の虚空に、高く高くあまかける神々のすがたを見るように思った。

「宗教に独特な煩瑣哲理や、奇蹟や証明なしで、そのまま我われの生活感情に溶けこんでいる神社の存在、そのものの純粋さは云うまでもないし、受容れる我われの在り方の純粋さもなおざりにはならない、……外来の宗教が地獄とかインフェルノなどの劫罰を掲げ、極楽や天国を約束することに依って、信仰を掴もうとするのは、ひと口に云えば宗教功利論になる、それは知識の低い民衆や支配者たちには、一応の帰依を受けるだろうが、根本的にはなんら影響を及ぼさないのだ、……なぜなら、理論なしに存在する神社というものがあり、それを受容れる超理論の信仰が先験的に我われのなかにあるからだ」

「……ちょっと休もう」大助が声を低くしてこう囁いた、「どうやら例のが近づいて来たようだ」

「休んでどうするんだ」

「この辺できまりをつけるほうがよくはないか、木曽へはいるまで跟けられては迷惑だ」