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しんちょうき
新潮記
山本 周五郎
「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页
そう思いながら大助は部屋へ戻った。二人は無腰だった、今すぐ秀之進に危険があるとはみえない、とすればなまじこちらから挑戦するような態度はみせないほうがよいと考えたのである。部屋へ戻った大助は宿の者を呼んで勘定を命じた。
「お立ちでございますか」
「伴れの都合がわからないが、ことによると夕刻にでも立つかも知れない」
「……夕刻に」
「高島の温泉へいってみたくなったのでね」
「それはお娯しみでございます」
勘定をし終ったとき、宿の者がひき返して来て客だと伝えた。
「客だって、間違いじゃないか」
「いいえ、こちら様のお名前を仰しゃってでございます、若い御婦人でございますが」
「じゃあ通して貰おうか」
宿の者は戻っていって、すぐに客を案内して来た。それは藤尾だった。大助はえっと眼をみはった。
「どうしたんです」
藤尾はそっと微笑しながら、そこへ手をついて挨拶を述べた。どんなに急ぎの旅を続けて来たのか頬のあたり眼のまわりに疲れのあとがまざまざしく刻みつけられている。顔色もひどく悪いし眼も充血していた。
「そんな挨拶なんかよしにしましょう、いったいどうしたんですか」
「貴方がたのお後を跟けている者がございますので、柳さまのお云いつけでお知らせ申しにまいりました」