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しんちょうき
新潮記
山本 周五郎
「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页
いま身も世もあらぬ気持だ……。いかにも悔恨のにじむ筆つきで一気に書きながしてあった。
「ここからの告白を聞いて下さい」大助はひと息つき、そういってしずかに手紙を読みつづけた。――わたくしは貴方のお情けでこのとしつき安穏にくらして来ました。そしてつねづね貴方がどんなお働きをなすっているか、往来なさるお武家さまがどのような方々であるか、なにをなさろうとするか、おぼろげながら知っていました。けれどもそれはただ知っていたというだけでした。「自分などの出る幕ではない、ああいうことはあの方々に任せて置けばよい」そう思っていたのです、そういう自分勝手な、気楽な考え方をしていたために、こんどのような情けない過ちをしてしまったのだと思います。
寒笑が御恩を仇で返すようなことをしたのも、お調子者で気が弱いというだけではありません。今の時勢がどのようなものか、それを知らないのが原因です。日本人ですから禁裏さまの尊いことは知っていますが、だから今どうしなければならないのか、ということは考えようとも思わない。「誰かがやっている、自分にはかかわりのないことだ」そう気楽に構えていた、それがあんな恥知らずな事をする原因だと思います。