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しんちょうき

新潮記

山本 周五郎

「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页

青空文庫

……五十歳を越えたとは思えぬつやつやしい顔である。眉毛の長い、細い鋭い眼をした、少しなで肩の、柔軟のなかに発条のような弾力を思わせるからだつきだった。

「手ばなせぬ来客で、昨夜から待たせ申して相済まぬ、わしがおたずねの校川宗兵衛じゃ、御用件を承ろう」

まえから用意していたらしい、一分の隙もない言葉でそう云い、ぐっと鋭い眼でこちらをみつめた。

――これが父だ、この人が自分の生みの父上だ、秀之進はそう思いながら老人を見た。心はしずかだった。五歳のときに別れた人なのに、その頃の印象は少しもない。父に対しているという実感も湧かない。――それではゆうべ障子を隔てて相対した、あの僅かな時間に父と子の対面は終ったのか。そうだと思う、そしていささかも動揺のない、しずかな調子で云った。

「お手間を欠いて申訳ありません、こんど亀阜荘さま(左近頼該)のお申付けで水戸へくだることになりました、こなたに手掛りをつけて貰えという仰せでお寄りしました、お計らい下さいましょうか」

「水戸へくだる御用向きは」

「甲辰の事について、亀阜荘さまおぼしめしをお伝え申す為です」

「大役だ」宗兵衛はぎろっと眼を光らせて云った、おまえには過ぎた大役だともとれるし、それは不可能だという意味にもとれる、秀之進は黙っていた、「そうせよとあれば道をつけるくらいのこと