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しんちょうき
新潮記
山本 周五郎
「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页
「供のなかに紛れこんで高松へ来たのは、水戸どのの家臣だ、というよりも結城寅寿ふくしんの者だ、姓名は大峰庄蔵、矢田部源七郎という、途中は下郎にやつしていたが、いまでは栗林荘にいる」
口調は穏やかであるが、まるで掌の物を指すような、あまりに確たる云い方なので、頼胤にはかえすべき言葉がなかった。
「早速とりしらべまして、さような者がおりましたら仰しゃるように計らいましょう……そして、その者共は水戸家へ渡しますのか、それとも追放するだけでございますか」
「栗林荘から追い出して下さればよい、あとは見ぬふりで……」
「承知いたしました」
「なるべく御自分でおはからいなさるよう」
左近はじっと弟の眼を見ながら、念を押すように云った。それがどういう意味かは頼胤にはよくわかった。寅寿ふくしんの者を供のなかに紛れこませたのが滝川内膳らの計らいであるのは云うまでもない。そうだとすれば老臣に命じても、その二名の追放は実行されぬとみなければならぬ……斉昭に私淑する左近が云いだすからは、その事実を指摘して来たのは水戸の激派であろう。ここでもし二名の追放がうやむやに終るとすれば、必ず水戸家とめあいだに悶着が再発する、――この問題だけは兄の言葉どおりにするほかはない、頼胤はそう心をきめた。