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しんちょうき

新潮記

山本 周五郎

「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页

青空文庫

「城代家老よりの使者としてまいりましたと、口上にござります」城代からの使者、左近はちょっと眼をつむった。……大峰、矢田部を追放すると、弟に約束させてから半日、案外すらすらとはこんだので、やっとひと息ついたところである。そこへ追っかけて城代からの使者といえば、両人追放に反対を申し出たのではあるまいか。そうだとすれば事は面倒になる。頼胤の立場が困難なことをよく知っているかれは、無理に押し切ることが、弟をどんな苦痛に押しやるかわかるし、さりとて老臣たちの申し条を容れれば、今とりかわしたばかりの、水戸家臣との口約を裏切ることになる。――こういうつまらぬ事の縺れから大事を誤るものだ。左近は使者にどう応待すべきかをややしばらく考えたのち、引見の間へと出た。

使者の校川宗兵衛は、紋服に麻上下を着けて来ていた。左近はすぐに扈従の者をさがらせ、膝をつき合せるようにして坐った。

「城代の用向きはなんだ」

「お上御帰国の供の中に、他家の家臣が紛れこんでおるとの御意につき、さようなる事実はこれなく、思召し違いに存じ奉るとの口上にございます」

「使者の役たいぎ」そう云って左近はじっと宗兵衛を見た、「宗兵衛、そのほうに城代の使者を申付けたのはなに者だ、老臣のさしずか、それとも」