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しんちょうき

新潮記

山本 周五郎

「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页

青空文庫

尾州領へはいらなかったこと、宮から鳥羽へ渡り、船でじかに大阪へはいったことが、幕府の追捕の手を巧みにのがれる結果となったのであろう、それから太橋屋と連絡をとると、大助はすでに高松へ帰ったあとで、四五日すれば荷船が出るという、秀之進はさらに大事をとり、その船便で大助とうち合せをしたうえ、こんどの船でようやく高松へ帰ったのだった。

江戸を出るときのもくろみはすべて手違いになった。尾州家の売買停止令で、木曽駒の買付けはできなくなり、鉄砲鋳工所への手掛りしかつかなかった。そのうえ信濃での出来事から、秀之進とその背後関係がにわかに幕吏の注目を惹いて、太橋屋の大阪の倉庫さえ、いつ捜査にふみ込まれるかわからぬ状態となった。それで積込んであった銑鉄、鉛の類を、急遽高松へ移すことになったのだ。

「まあとにかくこれじゃあしようがない、当分のあいだ日和を見るんですね、いかに成敗を度外にするからといって、このありさまでは指一本動かせやしませんから」

「……おれはでかけるよ」

秀之進は再び夜具の中へ身を横たえながら云った。

「でかけるって、何処へです」

「京都へさ、亀阜荘さまはかねて堂上がたと御連繋をもっておいでなさる、おれはその地固めをするつもりだ、江戸へも、またもういちど水戸へもゆきたい、身にかなうことならなんでもするよ」