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しんちょうき

新潮記

山本 周五郎

「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页

青空文庫

それは初めて父と子の心が触れ合ったということかも知れない、はっきり理由はわからないが、父上と呼び、もう御苦労はたくさんです、私が代りますからお休み下さい、そう呼びかけたい衝動を激しく感じた。

――もう会ってはいけない、こんど会うとみれんなことを云い兼ねない、秀之進はこう思ったのだ。

かつて竹隈で聞いた「時代の怒濤」という譬喩を思い返した。それはあらゆる人々がいま怒濤にのまれた家の屋根にしがみついているという風な表現だった。家の根太は既に洗い去られている。いつその家は濁流に押流されるかわからない、然も眼の前にある大きな新造の船に乗るだけの勇気がない、というような。……秀之進はいま自分をその怒濤の中に感じた。然しそれは東湖の云う如き意味ではない。彼は押流される者ではなく、怒濤と共に古いものを打破する側にあるのだ。

「己の身を投じたのは新しい潮流だ、国史にかつて存在しないまったく新しい潮流だ」

青史に遺る王政復古は権力交代の象徴であった。然しこんどは違う。こんどこそ国民ぜんたいを統一し、正しく国家のおおみおやとして在すところまでやり遂げなければならない。