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しんちょうき
新潮記
山本 周五郎
「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页
娘は微笑しながら大助を見てかぶりを振った。いかにも済まなそうな、赦しを乞うような表情である、「ほしくないですか、なかなか美味いですがね、若鶏であっさりしているし、柔らかで」
大助は誘うように舌鼓をうってみせた。藤尾は男の温かい気遣いがよくわかるのだろう、弱々しいなかにも心がゆたかになってゆく微笑みをうかべていた。
秀之進と別れてから十日しか経っていないが、その十日のあいだに多くの出来事があった。……大助が岩屋へ戻った日の夜、かの女の兄は病状が急変して死んだ。大助はその屍を背負って須走口へ下り、山麓の若葉の森のなかで荼毘にした。それは深夜のことだったが、はて知れぬ森の奥で、荼毘の火を前に、娘とただ二人ひっそりと夜を明かした経験は、大助にとって忘れることのできない異常な印象だった。娘は身も心も憔悴していた。射止めるようなはげしい双眸の光りが示すように、極端に世間と人を疑い惧れていたが、それさえ暫くは忘れはてた様子だった。
大助はしんそこから同情に駆られていた。どうかして娘を明るい元気な姿にしてやりたい、今までの生活が悲しいものだったら、これからは楽しい、甲斐ある生活へはいれるようにしてやりたい、そう思った。