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しんちょうき

新潮記

山本 周五郎

「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页

青空文庫

「梅八……?」大助はひょいと眼をあげた、「おい、寒笑先生おまえさん本当に大そう御出世をなすったねえ」

「な、な、なんでげす若旦那」

「お前が梅八を呼び捨てにできる身分になろうたあ思わなかった」

「失言、失言、まさに失言」寒笑はいきなり手を合わせた、「お怒りなすっちゃあ困ります決してそんなつもりじゃねえのでこの頃ずっとなにして、なにしてるもんですからつい、ついその狎れっこで口が滑りやした、ひらに御勘弁を」

「わかればいいのさ」大助も湯ぶねからあがって、きゅっきゅと小気味よくからだを拭きあげた、「久しぶりで一杯といいたいところだが、ちょっとおれの部屋へ来いというわけにいかないことがあるんだ、おまえどこにいる」

「あたくしですか、あたくしは奥のたしか菊とかいいましたっけ」

「あとでいくから待っていてくれ、少したのみがある」

「よろしゅうございます」寒笑はそういいながら、「ですが若旦那、ひとつだけお願いがあるんでげすがね、いえまたお笑い草の種でげしょうが、あたくしと一緒に書肆の番頭が来ていますんで、次の作の趣向の相談に来ているんですが、ひとつ、……どうかその男のいるところではお手柔らかに、どうか」