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しんちょうき

新潮記

山本 周五郎

「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页

青空文庫

さっきまでは登っていさえすれば温かかった。立ち停ると肌に粟が立つほど寒さを感じても、足を動かしているあいだは汗ばむくらいだった。しかし今はいくら足に力をこめて登りつづけても温かくならない。気温はぐんぐん低くなる。踏みしめるたびに地面の凍ってるのが足の指から這い登ってくる。どうかするといま喰べたばかりの物が胃の中でこちんと凍ってしまいそうにさえ思った。

「……大さん」秀之進がふと気づいたように、「北風が吹くと寒いね」

「…………」

大助はあっけにとられた、それから急に腹が立ってきたらしい。

「へえ! 寒いですか」と、がたがた震えながら云った、「これが寒いというんですか、冗談じゃない、あんたは実にいい人だがそれが悪いよ、そういう云い方はないと思うがね、北風が吹くと寒い、それは人をばかにすると云うものだよ」

「じゃ寒くないのかい」

「わたしは黙るよ」

本当にかれは黙った。言葉は胸にいっぱいにふくれあがっているのだが、疲れがひどかったし、口をきくだけからだの精力を消耗しそうな気がする。

――なに、早水だって人間だ、いつまでからだが続くものか、こうなれば意地くらべだ、そう思って登りつづけた。