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しんちょうき

新潮記

山本 周五郎

「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页

青空文庫

「金持の金は遣い心地が悪いもんでね」巻紙へなにか手早くしたためると、八十吉は手を叩いて女中を呼んだ、「これを槇野主膳どのまで届けさせて呉れ」

「あの……お目付の槇野さまでございますか」

「そうだ、急いでたのむ」

大助はじっと八十吉の表情を見まもっていた。

――旅費のことは嘘だ。

それはすぐにわかった。土浦で使いすぎたというのも嘘である。みんな口から出まかせだ。それは疑うまでもない。しかし府中藩士に手紙を出したのは目前の事実である。――少しずつ謎が解ける。たしかに、新島と会ったことが偶然でないとすれば、いまかれが手紙を出したことは「何事か始まった」のに違いない。

大助はそ知らぬ顔で、しかし頭のなかでは必死に推理をはたらかせていた。なにしろ事情がなんにもわからない。いったい何事がはじまるのか、自分はどういう位置にいるのか、なにかしなければならぬのかどうか、四方八方くらやみ同様だった。

「さて、それではわたくしも午睡でもするとしましょうか」

「おや、太橋さんは此所へお泊りなのかね」

「どうしてです」

「拙者はまた食事をしてお立ちかと思った、まだ日なかじゃないか」

「急ぐ旅でもありませんから」